戦術用語辞典

サッカーの戦術とは何か?~Jリーグ開幕前に知っておきたいこと~

投稿日:2021-02-25 更新日:

いよいよ明日、2月26日に2021シーズンのJリーグが開幕します。コロナウィルスの影響は心配ですが、どんなシーズンになるか楽しみですね。

さて、サッカーには様々な見方があります。好きなチームや地元のチームを追いかけている人、推しの選手が見たくて試合を見る人、多くのチームを広く見ている人。

そんな中、注目度が上がっているのが戦術的な見方です。最近では戦術ブログや、サッカーの面白い戦術を解説した動画や戦術分析の本などをよく見かけます。ちなみに、筆者のオススメするサッカー戦術本は「アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます」です。

近年のJリーグでも、大分トリニータの”疑似カウンター”や北海道コンサドーレ札幌の”ミシャ式”などの「戦術的なチーム」が話題になりました。

国内外の各チームの面白い戦術を見ていて、また、それについて議論する自分たちを見ていて、

そもそも戦術とは何か?

ということを考え始めました。

戦術に詳しい人やそれを見抜ける人は沢山いますが、大前提として「サッカーの戦術って何ぞや」ってことがあんまり議論されてないなと感じていました。

前からなんとなく、「戦術は○○ってことかなー」程度に自分の中で定義とは呼べないけどそれっぽいものがあったのですが、それをJリーグの開幕前に整理してみようと思います。サッカーの戦術をあまり知らない人にも分かりやすく書いたつもりです。あくまでも個人的な意見ですが、今シーズンのJリーグを見る上で少しでも参考になれば幸いです。


サッカーの戦術とは何か

結論から言うと、戦術とは意思決定です。

意思決定について、「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典」から引用します。

一般には,ある目標達成のための諸手段を考察し,分析し,その一つを選択決定する人間の認知的活動をいう。

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典


簡単にまとめると、「目標達成のための手段から1つを選んで決めること」と言えばいいでしょうか。

「意思決定」という言葉は主に経営学の分野で使われていて、企業や組織のみならず私たち個人も日常生活で意思決定をしています。

朝起きて、

・歯を磨く

・顔を洗う

・ご飯を食べる

などから1つを選んで生活しているはずだし、パジャマから私服に着替えるときも今日はどの服にしようかな?と迷って決めているはずです。

話を戻すと、サッカーの戦術とは「意思決定」すなわち

試合に勝つ(目標)ための手段から1つを選んで決めること

とも言い換えられます。

「勝つために、こういう意思決定基準(≒判断基準)に基づいてプレーを選択しよう!」ということが戦術的な戦い方だと思います。

もちろん、これはサッカーには限りません。



戦術的なチームとは何か?

さて、次は「戦術的なチームとは何ぞや?」について考えていきましょう。

「戦術的なチーム」と呼ばれるチームは、試合中に何がしたいか・どうやって勝ちたいかがテレビで観戦していても分かることがよくあります。

昨シーズンまでリカルド・ロドリゲス監督が率いた徳島ヴォルティスは、”ボールを保持しつつプレーして勝利を目指している”ということが、チームの関係者じゃなくても分かります。意思決定基準が選手に行き届いていて、選手自身がどういうサッカーをやるのかということを理解しているからです。

つまり、前項に沿って考えると、戦術的なチームとは

すべての選手に意思決定基準が備わっており、ピッチ上で11人がそれに基づいたプレーを選択できるチーム

だと言えます。


そこから少し派生すると、戦術的な選手は

チームの意思決定基準に沿いつつプレーを選択できる選手

だと表現することができます。


ちなみに、サッカーには「このプレーが正解」というようなプレーはありません。ボールをどこに蹴ろうが、どれくらいの速さで走ろうが、どうやってゴールを狙おうが自由です。非常に自由度が高いゲームです。

しかし、だからこそチームで「意思決定基準」を定めなければなりません。チームにとっての”良いプレー”や”悪いプレー”を決める必要があります。

この「決める」というのが重要だったりします。ポゼッションサッカーをやりたいのか、カウンターでゴールを狙うのか、どんなサッカーをベースにするか決めずに中途半端になってしまうと選手が迷ってプレーの判断速度が遅くなるかもしれません。試合中の状況に応じたプレーを、毎回のように選手が個々の基準で判断するというのは効率的ではないですし、疲労が早まってしまいます。あらかじめ意思決定基準を浸透させておくと、試合中での選手の判断が速くなり、選手も迷いにくくなります。


ここでエピソードトークを1つ。

子供のころ、親に「今日の晩御飯は何がいい?」と聞かれた経験が多くの人にあるはずです。そのとき、私はよく「何でもいいよー」と返していました。

親の立場からすると、何かしらの料理を提示してほしかったはずです。「何でもいい」と言われると、自分の力で食材選びや分量や味付けなどに大きな決断力を費やすことになってしまいます。疲れてクタクタになった午後7時に頭を回転させてレシピを考えるのは結構キツイですし。

肉じゃがとかハンバーグなど、料理名を提示してあげると親は無駄な決断力を使わずに済み、スムーズに料理が進むはずです。

実家で暮らしている学生の方は、聞かれた時にはぜひ母親に食べたい料理名を言ってあげてください。そしてたまにでいいので手伝ってあげてください。1人暮らし4年目だからこそ言えますが、料理と皿洗いはまじで大変...(笑)。



戦術と戦略の違いとは?

次は、サッカーの戦術を語る時に言及されがちランキング上位5位に入るであろう、「戦術と戦略の違いとは?」について考察していきm…

両者に違いはありません。

急ぎすぎて結論が出てしまいましたが、そういうことです。サッカーにおいて、戦術と戦略に違いはないと考えていいんじゃないかと思います。つまりこの2つは同義語です。


何をもって「戦略」というかは分かりませんが、よく言われるサッカーの戦略としては、

・選手の獲得

・スタジアムの観客数増加に向けた施策

・経営戦略

・SNSによるマーケティング戦略

など、ピッチ外での出来事が頻繁に挙げらます。もちろん、ピッチ内での事も戦略と呼ばれている場合もあります。

この中にある「選手の獲得」について考えてみましょう。適切な予算でチームのスタイルに合った選手を選んで獲得するという行為は、まさしく意思決定です。


仮に、セレッソ大阪が川崎フロンターレの三笘薫選手を獲得したとします。すると、セレッソ大阪には三笘という大きな武器が手に入り長所が増え、逆に川崎としてはストロングポイントが減ってしまいます(セレッソ大阪に三苫がフィットするかどうかは考慮していません)。

このように、クラブのスタッフの意思決定によってピッチ外で取った行動がピッチ内での試合に反映されます。


また、単純な考え方ですが、SNSでのマーケティングが上手くいって注目度が高まるとスタジアムに試合を見に来る観客が増えてチケット収入が増加し、そのお金で優秀な監督・コーチ・選手・スタッフたちを揃えることができ、試合に勝つ可能性が上がります。試合に勝ち続けるともっとお金が入り、そのお金でまたチームを強化できるという好循環が生まれます。

SNSでのマーケティングが結果的にピッチ上での勝利に繋がります。


つまり戦略は、戦術と同じようにどちらも試合に勝つための手段から1つを選ぶ行為なので、戦術と戦略は同義語だと思うのです。


そういえば、とある外国のリーグにてこんな事がありました。
監督が新選手の獲得成功について質問された時、「その選手は私の望んだ選手ではない」と答えたのです。

当時高校生だった私は、記事を見て「!??」みたいな感じになったのを覚えています。

「え、監督が欲しい選手を獲るのが普通じゃないの?考えられへん!」
と、自分の中のキム兄が暴れまわっていました。


おそらく、チームの中で意思決定の統一がいまいちだったのかもしれません。

ポゼッションサッカーをしているチームならそれに向いた選手を獲らなきゃいけないし、奪ってカウンターから得点を量産するチームがFWを獲得する際には、スプリントのスピードが1つの指標になるかもしれません。

そういった選手の獲得に必要な意思決定の整備や伝達に不備があった可能性が考えられます。

結果的にそのチームは、前年よりも順位を9つ落としてしまいました。強いと言われるチームは、意思決定基準がオーナーやGMの行動からピッチでの選手の判断にまで行き届いて浸透しているのではないか、というお話でした。


戦術は選手を縛るものではない。でも、、、

さて、戦術は選手を縛るものだと考える方もいるかもしれません。これはむしろ逆で、戦術は選手の創造性を引き出すものです。前述した親の料理の話でも言った通り、「何でもいい」と言われると無限の選択肢から1つを選ばなければならず、かなり大きな意思決定力を要します。

なので、例えば「ボールを奪ったら素早くサポートしてポゼッション回復」などのように意思決定基準を設けることによりプレーの選択が容易になり、それを起点として選手の創造性が肥大化するはずです。

ですが、意思決定基準が存在するが故の弊害もあるはずです。ある選手がミスをした時、彼は「チームの意思決定基準に沿ってプレーしたから俺は悪くない」という言い訳ができてしまいます。


この弊害に対する策みたいなものを発見しようとググっていたところ、意思決定には「定型的意思決定」と「非定型的意思決定」があることを知りました。前者は直面したことのある問題に対する「マニュアル通り」の意思決定。後者は直面したことのない問題に対する「即興」の意思決定です。


この「即興」のような非定型的意思決定が重要になるのでは?と個人的に考えていました。要は、チームの意思決定にあえて余白を作るという考え方です。もしくは、選手の即興力を高めるトレーニングが重要になるのかもしれません。


ガチガチに意思決定基準を決めず、少し余裕を持つことが大切になる時代が来るはずです。もう来てるかもしれないけれど。




戦術・技術・メンタル・フィジカルと「構造主義」

「Jリーグで1番上手い選手は誰?」と聞かれたら、あなたは誰だと答えますか?

こう聞かれるとほとんどの人は、選手が華麗なドリブルをしたり、狭いパスコースへ鋭いパスを通したり、豪快なシュートを決めるシーンを想像するはずです。

上手いと言われる選手はそういった「技術」の面で優れています。ですが、それと同時に彼らは戦術的にも優れていると言えます。

図を使って説明します。

ボールを持った選手の近くには、AとBがいます。図の通り、普通に考えると両選手へのパス成功率はA>Bです。ですが、パスが通った場合にチャンスに繋がるのはBの方です。言わずもがな、Aよりも相手ゴールに近く、相手ゴールがある中央付近に位置しているからです。

難易度の高いBにパスが通った場合、出し手はパスの技術が高いだけでなく、

狭いBへのパスコースを見つけ、そのパスが得点に近づくことができると判断し、選ぶことができた

と評価することもできます。つまり、戦術(=試合に勝つための手段から1つを選んで決めること)の面でも高い能力を持っていると言えます。

ドリブルやシュートなどあらゆる場面で、選手は必ず意思決定の末にそのプレーを選んでいます。

このように、戦術と技術は完全に切り離すことはできません。これはレヴィ=ストロースの構造主義的な考え方です。

他にも、サッカーを構成するものとしてよく挙げられるのがメンタルやフィジカルです。これらも戦術や技術とは完全に分けることはできず、サッカーでのアクションに必ず影響を及ぼしています。先ほどの図の例に沿って考えてみましょう。パス精度に自信が無い(メンタル)とBへの難しいパスは選択できないかもしれないし、キック力(フィジカル)が強くないとBへの狭いパスコースを狙ったボールはインターセプトされてしまいます。

これらの理由から、戦術・技術・メンタル・フィジカルは個別に存在するものではなく、お互いに影響を及ぼし合ってピッチでのプレーに現れていると言えます。
試合を見る際に、選手は戦術・技術・メンタル・フィジカルという多次元の要素の中でプレーしているということを意識すると違った景色が見れるかもしれません。


おわりに

最後まで読んでいただきありがとうございます。ここまでサッカーの戦術についてああだこうだ言ってきましたが、ここに記したことはあくまでもいち個人の考え方であって、サッカーに正解はないということを強調しておきます。
「戦術とは作戦のことだ!」とか、「戦術と戦略は同じではない!」とか、「戦術と技術は完全に分けられるものだ!要素還元主義だ!」という考え方があってもいいと思うのです。というか、そう思いながら読んでくれた人もいるはずです(笑)。

それと、もう1つ。この文章は戦術的な見方を強制したり、それが正義だと言っているわけではありません。結局、好きな見方で見るのが一番だと思います。ただ、こういう競技的なことを知っておくとサッカーの楽しみ方が増えて、さらにサッカーが楽しくなるんじゃないかなと思うのです。

最後に。

サッカーを見るときに普段から両チームの戦術を考えている人にも、そうでない人にも、この文章が少しでもサッカーをする・見る・教える・考える際の助けになれば嬉しく思います。というわけで、明日からのJリーグ、楽しみましょう!!


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執筆者:


  1. たぬきち より:

    三笘選手の名前が間違っています。

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